パーキンソン病でなぜ動きにくくなる?病態生理と観察項目を看護学生向けに整理

看護実習

パーキンソン病の観察は、運動症状と非運動症状を分けて考える

パーキンソン病の観察項目を整理するには、ドパミン不足による運動症状だけでなく、自律神経症状、睡眠障害、嚥下障害、精神・認知機能の変化、薬効変動を合わせて捉えることが重要です。

パーキンソン病は、中脳黒質のドパミン神経細胞が減少し、線条体で働くドパミンが不足することで、動作緩慢、振戦、筋強剛、姿勢保持障害などが生じる神経変性疾患です。

症状はゆっくり進行し、出現する症状や進行の速さには個人差があります。初期には左右どちらか一方の手足から症状が現れ、経過とともに両側へ広がることがあります。

看護実習では、歩行や更衣などの動作だけでなく、便秘、起立性低血圧、排尿障害、睡眠、食事・嚥下、服薬時刻、心理面、家族や在宅療養環境を生活場面で確認します。

黒質のドパミン神経細胞が減少すると運動を滑らかに調整しにくくなる

パーキンソン病では、中脳黒質にあるドパミン神経細胞が変性・脱落し、線条体へ送られるドパミンが減少します。

ドパミンは、大脳基底核の神経回路を通して、動作の開始、動作の大きさ、動作の速さ、姿勢の調整に関わります。ドパミンが不足すると必要な動作を適切に開始・調整しにくくなります。

神経細胞内でαシヌクレインが凝集・蓄積することが病態に関与すると考えられています。ただし、症状はドパミン系の障害だけで説明できるものではなく、非ドパミン系の神経回路や自律神経系の障害も関与します。

そのため、パーキンソン病では運動症状に加えて、便秘、起立性低血圧、睡眠障害、抑うつ、認知機能低下、嚥下障害など多様な非運動症状がみられます。

代表的な運動症状は、動作緩慢、振戦、筋強剛、姿勢保持障害

動作緩慢は、日常生活動作の遅さとして現れる

動作緩慢は、動きが遅くなるだけでなく、反復する動作の大きさや速さが次第に小さくなる症状です。

歩き始めに時間がかかる、寝返りや立ち上がりが遅い、食事や更衣に時間がかかる、表情が乏しい、声が小さい、字が小さくなるなどとして現れます。

観察では、動作を始めるまでの時間、反復動作の小ささ、食事・整容・更衣・排泄・移乗に必要な時間と介助量を確認します。

「動作が遅い」とだけ判断せず、疲労、抑うつ、認知機能低下、薬効が切れる時間帯、疼痛なども動作に影響していないかを考えます。

安静時振戦は、安静にしているときに目立ちやすい

安静時振戦は、手足を力を抜いているときにみられやすい振戦です。手指で丸薬を丸めるような動きとしてみられることがあります。

振戦は一側から始まり、動かすと軽くなる場合があります。すべての患者さんにみられるわけではなく、振戦の程度と生活への影響には個人差があります。

観察では、振戦の部位、左右差、安静時と動作時の違い、食事、更衣、整容、書字、服薬などへの影響を確認します。

振戦の急な悪化は、不安、疲労、睡眠不足、発熱、薬効変動などの影響も受けるため、症状が強くなる状況と経過を確認します。

筋強剛は、他動的に関節を動かしたときの抵抗として確認される

筋強剛は、筋肉の緊張が高まり、他者が関節をゆっくり動かしたときに抵抗を感じる症状です。

一定の抵抗が続く鉛管現象や、振戦が重なって断続的な抵抗を感じる歯車現象がみられることがあります。

学生が筋強剛を自己判断で評価するのではなく、医師や理学療法士などの所見を確認しながら、体のこわばり、関節可動域、疼痛、更衣、移乗、寝返り、清潔動作への影響を観察します。

筋強剛は姿勢異常や肩・腰などの疼痛、活動量低下につながることがあるため、生活動作の変化と合わせて評価します。

姿勢保持障害と歩行障害は、転倒・転落につながる

姿勢保持障害では、バランスを崩したときに姿勢を立て直しにくくなり、転倒しやすくなります。

前傾姿勢、小刻み歩行、すくみ足、突進歩行、方向転換時のふらつき、狭い場所や人混みで足が出にくいなどがみられます。

姿勢保持障害は病初期よりも経過のなかで目立ちやすい症状です。発症早期から著しい転倒や姿勢保持障害がみられる場合は、パーキンソン症候群を含めた評価が必要になることがあります。

観察では、立ち上がり、方向転換、歩幅、歩行速度、すくみ足が起こる場面、転倒歴、履物、歩行補助具、住環境、介助方法を確認します。

非運動症状は、生活の質と安全に大きく影響する

自律神経症状では、起立性低血圧、便秘、排尿障害を確認する

パーキンソン病では自律神経系の障害により、起立性低血圧、便秘、頻尿、夜間頻尿、残尿感、尿失禁、発汗異常などがみられることがあります。

起立性低血圧では、臥位・座位・立位の血圧と脈拍、起立時のめまい、ふらつき、失神前症状、転倒との関連を確認します。治療薬や降圧薬などの影響も合わせて評価します。

便秘では、排便回数、便性状、腹部膨満感、排便困難、下剤の使用状況、食事・水分摂取量、活動量を確認します。

排尿障害では、排尿回数、夜間頻尿、尿意、残尿感、尿失禁、排尿にかかる時間、トイレまでの移動の安全性を確認します。

嚥下障害と流涎では、食べる機能と誤嚥の徴候を評価する

口腔・咽頭・喉頭の運動が低下すると咀嚼、食塊形成、送り込み、咳嗽による気道防御が行いにくくなり、嚥下障害が生じることがあります。

流涎は唾液が過剰に分泌されるためではなく、口腔内の唾液を無意識に飲み込む回数が減ることが主な要因です。

食事中のむせ、咳嗽、湿性嗄声、口腔内残留、流涎、食事時間の延長、食事摂取量の低下、体重減少を確認します。

食後の湿性嗄声、痰の増加、発熱、呼吸数増加、SpO2低下、呼吸音の変化は誤嚥性肺炎を疑う所見として、食事場面だけでなく食後も含めて確認します。

睡眠・精神・認知機能の変化は、疾患と治療の両面から考える

パーキンソン病では、睡眠障害、レム睡眠行動障害、日中の眠気、抑うつ、不安、アパシー、幻視、せん妄、認知機能低下などがみられることがあります。

幻視、混乱、突発的な眠気などは、病気の進行だけでなく、ドパミン補充療法を含む治療薬、感染、脱水、睡眠不足、環境変化などが関与する場合があります。

睡眠時間と中途覚醒、日中の覚醒状況、夢の内容や睡眠中の行動、気分、意欲、幻視の内容と頻度、会話や判断力の変化、昼夜逆転の有無を確認します。

精神症状を性格の問題として扱わず、安全確保と苦痛の軽減を優先します。急な混乱や意識状態の変化がある場合は、感染や薬剤性せん妄などの急性要因も考えます。

薬効変動では、症状と内服時刻の関係を確認する

パーキンソン病の治療では、レボドパなどの薬物療法が中心です。症状や副作用の現れ方に合わせて、薬剤の種類、投与量、投与時刻が調整されます。

病気の進行とともに、次回内服前に薬の効果が弱くなるウェアリング・オフや、良好な状態と動きにくい状態が急に切り替わるon-off現象がみられることがあります。

薬が効いている時間帯に不随意運動であるジスキネジアがみられることがあります。症状を単に「落ち着きがない」と判断せず、内服時刻、薬効、運動症状、生活への影響を記録します。

観察では、内服時間、内服後の症状変化、動きにくくなる時間帯、転倒やすくみ足が起こる時間帯、眠気、悪心、幻視、混乱の有無を確認します。

抗パーキンソン病薬の自己中断や急な減量は、症状悪化や悪性症候群の誘因となることがあります。服薬方法の変更は自己判断で行わず、異常時は医療者へ相談する必要があります。

パーキンソン病で優先して集める情報

・運動症状:動作緩慢、安静時振戦、筋強剛、すくみ足、歩幅、方向転換、姿勢、転倒歴

・ADL:食事、更衣、整容、寝返り、起き上がり、移乗、歩行、排泄に必要な時間と介助量

・自律神経症状:起立時の血圧変化、めまい、便秘、排尿状況、発汗、睡眠

・嚥下と栄養:むせ、湿性嗄声、流涎、食事時間、食事摂取量、体重、呼吸状態、口腔内残留

・精神・認知:抑うつ、不安、意欲、幻視、せん妄、認知機能、会話内容、昼夜の行動変化

・服薬と症状変動:内服時刻、薬効、off時間、ジスキネジア、眠気、幻視、悪心、自己管理状況

・生活環境:歩行補助具、履物、ベッド周囲、トイレまでの動線、段差、家族の支援、退院後の生活

治療は、症状を軽減しながら生活機能を維持することを目指す

現在、パーキンソン病の進行を完全に止める治療法は確立していませんが、薬物療法、リハビリテーション、生活調整によって症状を軽減し、ADLとQOLを維持することを目指します。

薬物療法では、レボドパ、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬、COMT阻害薬などが、年齢、症状、認知機能、合併症、薬効変動の状況に応じて選択・調整されます。

薬物療法で調整が難しい振戦、薬効変動、ジスキネジアなどに対しては、脳深部刺激療法(DBS)を含むデバイス補助療法が検討されることがあります。

リハビリテーションでは、運動療法、歩行練習、転倒予防、関節可動域の維持、発声・構音訓練、嚥下訓練、日常生活動作の工夫を組み合わせます。

看護では、安全確保とその人らしい生活の継続を支える

転倒予防では、すくみ足、突進歩行、姿勢保持障害、起立性低血圧、off時間を踏まえ、動線、照明、履物、歩行補助具、ナースコールの位置、介助方法を個別に調整します。

誤嚥予防では、覚醒状態、姿勢、食事形態、一口量、食事のペース、口腔内残留を確認し、食後も呼吸状態を観察します。食事形態の変更は、嚥下評価や病棟の指示に沿って行います。

服薬支援では、内服時刻と症状の関係を患者さんと共有し、自己管理が難しい理由を確認します。服薬忘れ、手指の巧緻動作低下、認知機能の変化、生活リズム、家族の支援状況に合わせた方法を検討します。

進行性疾患であることへの不安や、役割の変化、将来の療養への思いを傾聴します。必要に応じて、医師、薬剤師、リハビリテーション職、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー、訪問看護などと連携します。

観察所見を病態生理と結び付けてアセスメントする

パーキンソン病のアセスメントでは、「歩行が遅い」「むせがある」と所見を並べるだけでは不十分です。ドパミン不足による運動調節障害、薬効変動、嚥下機能、自律神経症状、生活環境との関連を考えます。

たとえば「黒質ドパミン神経細胞の減少に伴う動作緩慢と姿勢保持障害により、方向転換時のふらつきとすくみ足がみられる。起立時のめまいも訴えているため、歩行・移乗時の転倒リスクが高い。内服時刻と動作の変化、起立時血圧、歩行状態、住環境を継続して確認する」と記載すると病態と転倒予防がつながります。

また「口腔・咽頭運動の低下により食事中のむせと食後の湿性嗄声がみられる。誤嚥による呼吸器合併症のリスクを考え、食事中の咳嗽、口腔内残留、食事摂取量、体重、食後の呼吸音と発熱の有無を確認する」と記載すると嚥下障害を生活場面で評価できます。

ただし、転倒、意識状態の変化、呼吸状態の悪化はパーキンソン病以外の急性疾患でも生じます。感染、脱水、脳血管障害、薬剤の副作用なども踏まえ、症状の経過とバイタルサインを合わせて総合的に判断します。

まとめ

パーキンソン病では、黒質ドパミン神経細胞の減少により、動作緩慢、振戦、筋強剛、姿勢保持障害などの運動症状が生じます。

看護では、運動症状だけでなく、自律神経症状、嚥下障害、睡眠、精神・認知機能、薬効変動を合わせて観察することが重要です。

病態生理から症状、生活への影響、安全上のリスク、必要な支援をつなげて考えることで、根拠のあるアセスメントと看護計画につなげやすくなります。

参考サイト

パーキンソン病診療ガイドライン2018 一般社団法人日本神経学会

パーキンソン病について 慶應義塾大学病院 パーキンソン病センター

嚥下障害診療ガイドライン2024年版 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

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