認知症の観察は、認知機能の障害と行動の背景を分けて考える
認知症の観察項目を整理するには、記憶、見当識、理解・判断、遂行機能などの中核症状と不安、興奮、拒否、目的が分かりにくい歩行などの行動・心理症状(BPSD)を分けて捉えることが重要です。
認知症は、さまざまな脳の病気によって認知機能が持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障が生じている状態を指します。認知症は単一の病名ではなく、原因疾患によって症状の現れ方や経過が異なります。
入院中の患者さんでは、骨折、肺炎、心不全、糖尿病、手術後などの治療と並行して、認知症による理解・判断や生活動作への影響を考える必要があります。
看護実習では、「忘れている」「落ち着きがない」と表面的に捉えるのではなく、どの認知機能が低下しているか、本人が何に困っているか、身体的不調や環境変化が行動に影響していないかを確認します。
認知症は原因疾患によって症状の特徴が異なる
認知症の原因として、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症などがあります。
アルツハイマー病では、記憶に関わる海馬や側頭葉内側部の障害が早期からみられやすく、新しい出来事を覚えにくい、同じ質問を繰り返す、物を置いた場所が分からなくなるなどの症状が現れます。
血管性認知症では、脳血管障害が生じた部位や範囲に応じて、注意、遂行機能、歩行、感情の調整などに障害がみられます。症状が段階的に変化する場合があります。
レビー小体型認知症では、認知機能の変動、具体的な幻視、レム睡眠行動障害、パーキンソニズム、自律神経症状などがみられることがあります。
前頭側頭葉変性症では、脱抑制、常同行動、社会的行動の変化、意欲低下、言語機能の障害が目立つ場合があります。
原因疾患を看護師や学生が診断することはできませんが、既往歴、診断名、神経症状、認知機能の特徴、経過、治療内容を確認すると患者さんに起きている困難を理解しやすくなります。
中核症状は、脳の障害によって生じる認知機能の低下
記憶障害では、新しい情報を保持しにくい
記憶障害では、数分前から数時間前に聞いたことや経験したことを保持しにくくなります。
同じ質問を繰り返す、食事や服薬をしたことを忘れる、物を置いた場所が分からない、説明を受けたことを覚えていないなどがみられます。
観察では、繰り返される質問の内容、説明後の理解、食事・服薬・検査・処置への反応、メモや掲示物を活用できるかを確認します。
記憶障害がある場合は、忘れたことを指摘して訂正するよりも短く具体的に繰り返し説明し、見通しが持てる環境を整えることが重要です。
見当識障害では、時間・場所・状況の理解が難しくなる
見当識障害では、日時、季節、場所、自分が置かれている状況、人との関係を正しく把握しにくくなります。
病院にいる理由が分からない、自宅へ帰ろうとする、夜間に昼と誤認する、スタッフを家族と取り違えるなどがみられることがあります。
観察では、日付や場所を言えるかだけでなく、入院目的、現在予定されている治療、家族・スタッフとの関係をどの程度理解しているかを確認します。
見当識障害がある患者さんでは、時計、カレンダー、場所を示す掲示、なじみの物品、分かりやすい説明が安心につながる場合があります。
理解・判断力の低下では、安全な行動を選びにくくなる
理解・判断力が低下すると説明内容や周囲の状況を理解し、自分に必要な行動を選ぶことが難しくなります。
ナースコールを使わずに一人で立ち上がる、点滴やチューブの必要性が理解できない、危険な場所へ進もうとする、服薬や治療を自己判断で中断しようとするなどがみられます。
観察では、単純な指示を理解できるか、危険を予測できるか、援助を求める方法を理解しているか、行動の前後にどのような状況があったかを確認します。
安全管理では、できないことを一方的に制限するのではなく、患者さんが理解しやすい伝え方、環境調整、見守り、動線の工夫を検討します。
遂行機能障害では、一連の動作を順序立てて行いにくい
遂行機能障害では、目的に向けて計画を立て、手順を考え、順番に実行し、途中で修正することが難しくなります。
更衣の順番が分からない、歯磨きの途中で止まる、食事の準備ができない、排泄動作を途中で中断するなど、生活動作のなかで現れます。
観察では、更衣、整容、食事、排泄、入浴、服薬などを、どこまで自力で実施できるか、どの段階で止まるか、声かけや物品配置で実施できるかを確認します。
援助では一度に多くの指示を出さず、動作を一つずつに分け、必要な物品を見えやすく配置することで、残存機能を活かしやすくなります。
BPSDは、本人の苦痛や環境とのミスマッチを示すサインとして捉える
BPSDは、認知症に伴う行動・心理症状を指します。不安、焦燥、興奮、拒否、妄想、幻覚、睡眠障害、抑うつ、目的が分かりにくい歩行などが含まれます。
BPSDは脳の病変だけで決まるものではありません。中核症状に、痛み、便秘、尿意・尿閉、空腹、疲労、感染、脱水、低酸素血症、薬剤、環境変化、コミュニケーションの行き違いなどが重なって現れます。
そのため、「問題行動」として制止するのではなく、患者さんが何を伝えようとしているか、どのような苦痛や不安が背景にあるかを考える必要があります。
急なBPSDの出現や急激な悪化は、せん妄や身体疾患の可能性もあるため、認知症の進行と決めつけません。
不安・焦燥・興奮では、出現前後の状況を確認する
不安や焦燥では、落ち着きのなさ、頻回な訴え、繰り返しのナースコール、表情の緊張、帰宅願望、拒否などがみられることがあります。
観察では、いつから始まったか、出現する時間帯、前後の出来事、周囲の音や人の出入り、ケアや説明の方法、睡眠、疼痛、排泄状況を確認します。
急に興奮した場合は、低酸素血症、発熱、疼痛、便秘、尿閉、低血糖、薬剤の影響など、治療を要する身体的原因がないかを優先して確認します。
対応では、急かさず、短く穏やかに説明し、刺激を減らし、安心できる人や物とのつながりを活かします。
妄想・幻覚では、否定せず安全と苦痛の程度を評価する
物を盗られたという訴え、家に帰らなければならないという訴え、誰かがいると話すなどは、認知機能の低下や不安、感覚障害、環境変化、原因疾患の特徴などと関連してみられることがあります。
観察では、訴えの内容、頻度、出現する時間帯、本人の恐怖や不安の程度、行動化の有無、周囲への危険性、睡眠や薬剤との関連を確認します。
訴えを事実かどうかだけで否定すると不安が強まることがあります。まず感情を受け止め、安心できる環境を整えたうえで、必要な安全確保や医療者への報告につなげます。
幻視や意識の変動がある場合は、レビー小体型認知症の特徴だけでなく、せん妄、感染、薬剤、視覚障害なども踏まえて評価します。
目的が分かりにくい歩行では、行動の意味と安全性を確認する
病棟内を繰り返し歩く、出口を探す、荷物をまとめるなどの行動は、帰宅願望、見当識障害、不安、排泄の必要性、痛み、退屈、活動習慣などを背景にしている場合があります。
観察では、歩き始める時間帯、行き先、歩行能力、履物、疲労、転倒歴、トイレや食事との関係、声かけへの反応を確認します。
単に歩行を止めるのではなく、安全な歩行経路、見守り、トイレへの誘導、安心できる説明、日中活動の調整などを検討します。
急に歩行が不安定になった場合は、脳血管障害、感染、脱水、薬剤、副作用、疼痛などの急性変化も考えます。
認知症とせん妄を混同せず、急な変化を見逃さない
認知症は通常、数か月から年単位で緩徐に進行します。一方で、せん妄は注意力や意識の変動を伴い、急性に発症して短時間から日単位で変動することが特徴です。
入院、手術、感染、脱水、低酸素血症、電解質異常、疼痛、便秘、尿閉、睡眠障害、薬剤などは、せん妄の誘因になります。
「急に会話がかみ合わない」「昼夜逆転が急に強くなった」「急に興奮または傾眠が出た」「いつもより注意が続かない」などの変化は、認知症の進行ではなくせん妄を疑う重要な所見です。
急性変化がみられる場合は、バイタルサイン、SpO2、疼痛、排泄、食事・水分摂取、睡眠、薬剤、感染徴候を確認し、速やかに報告します。
入院中の認知症患者さんで優先して集める情報
・認知機能:記憶、見当識、理解・判断、遂行機能、会話の理解、意思表示の方法
・生活機能:食事、更衣、整容、排泄、入浴、移動、服薬に必要な介助量と残存能力
・BPSD:不安、焦燥、興奮、拒否、妄想、幻覚、睡眠、行動の出現時間帯と背景
・身体状態:疼痛、発熱、呼吸状態、便秘、尿意・尿閉、排尿状況、脱水、低血糖、皮膚トラブル
・安全:転倒・転落歴、歩行状態、ナースコールの使用、点滴・チューブ類への反応、離棟リスク
・食事と嚥下:食事摂取量、食べる速さ、むせ、口腔内残留、義歯、体重、誤嚥リスク
・環境と支援:生活歴、日課、好きなことなじみの物、家族との関係、補聴器・眼鏡の使用、退院後の生活
看護では、できないことではなく残っている力を活かす
認知症患者さんへの看護では、本人ができないことだけに注目せず、声かけ、環境、物品配置、手順の工夫によって実施できる部分を見極めます。
コミュニケーションでは、正面から目線を合わせ、短い文で一つずつ伝え、選択肢を絞り、返答を待つことが基本です。聞こえにくさや見えにくさがある場合は、補聴器や眼鏡の使用状況を確認します。
転倒予防では、トイレのタイミング、歩行能力、履物、ベッド周囲、照明、ナースコールの位置、点滴ラインの有無を確認し、患者さんに合った環境を整えます。
家族は、患者さんの生活歴、普段の認知機能、安心できる関わり方、本人の希望を知る重要な存在です。本人と家族の思いを確認し、退院後も含めた支援につなげます。
観察所見を認知機能と背景要因に結び付けてアセスメントする
認知症のアセスメントでは、「物忘れがある」「拒否がある」と所見を並べるだけでは不十分です。どの認知機能が低下しているか、行動の背景に身体的・心理的・環境的な要因がないかを考えます。
たとえば「短期記憶障害と見当識障害により、入院目的と安静の必要性を保持できず、繰り返し一人で離床しようとしている。夜間に不安が強くなるため、疼痛、尿意、睡眠状況、病室環境を確認し、短い説明とトイレ誘導、ベッド周囲の環境調整を行う必要がある」と記載すると症状と安全対策がつながります。
また「夕方から落ち着きのなさと大声がみられる。認知症による見当識障害に加えて、便秘による腹部不快感と病室環境の刺激が影響している可能性がある。排便状況、腹部症状、疼痛、睡眠、周囲の刺激、声かけへの反応を確認する」と記載するとBPSDの背景を評価できます。
ただし、急な意識変化、注意力低下、興奮、傾眠はせん妄や急性疾患を疑う所見です。認知症の症状と決めつけず、バイタルサイン、身体症状、検査、薬剤、経過を合わせて総合的に判断します。
まとめ
認知症は、さまざまな脳の病気によって認知機能が低下し、日常生活に支障が生じる状態です。
看護では、記憶障害、見当識障害、理解・判断力低下、遂行機能障害などの中核症状とBPSDの背景要因を分けて評価します。
症状の背景にある身体的不調、心理的不安、環境変化、せん妄の可能性を確認し、残存能力を活かした関わりにつなげることが重要です。
参考サイト
認知症疾患診療ガイドライン2017 一般社団法人日本神経学会
認知症 こころの情報サイト 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
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