脳梗塞の観察は、血流低下による脳機能障害から考える
脳梗塞の病態生理と観察項目を結び付けるには、どの血管が障害され、どの脳領域の機能が低下しているかを考えることが重要です。
脳梗塞は、脳動脈の閉塞や著しい狭窄によって脳血流が低下し、脳組織が虚血性障害を受ける疾患です。血流低下が持続すると梗塞巣が形成され、障害部位に応じた神経症状が現れます。
脳梗塞後にみられる片麻痺、感覚障害、失語症、嚥下障害、視野障害、高次脳機能障害などは、脳のどの部位や神経回路が障害されたかによって異なります。
実習では症状を個別に覚えるのではなく、脳血流低下から神経症状、生活上の困難、必要な観察へつなげて整理します。
脳血流が低下すると障害部位に応じた神経症状が現れる
脳は酸素とブドウ糖への依存度が高く、血流が急に低下すると神経細胞の機能が障害されます。
脳血流の低下が持続すると障害部位では不可逆的な組織障害が生じます。一方で、急性期治療やリハビリテーション、周囲の脳機能による代償によって、症状や生活機能が改善することがあります。
したがって、脳梗塞の観察では発症時の症状だけでなく、症状の変化、急性期の悪化徴候、ADLへの影響、回復過程を経時的に確認する必要があります。
代表的な脳梗塞の病型と症状の現れ方
ラクナ梗塞は、穿通枝の閉塞によって生じる小さな梗塞
ラクナ梗塞は、脳の深部へ血液を送る細い穿通枝動脈が閉塞して生じる脳梗塞です。
高血圧を背景とした小血管病変が関与することが多く、被殻、視床、橋、内包などに小さな梗塞巣をつくります。
内包などの運動・感覚の伝導路が障害されると片側の運動麻痺や感覚障害が目立つことがあります。症状の程度や現れ方は障害部位によって異なるため、左右差と経過を丁寧に確認します。
アテローム血栓性脳梗塞は、動脈硬化による太い血管の狭窄・閉塞で生じる
アテローム血栓性脳梗塞は、頸動脈や頭蓋内の比較的太い動脈で動脈硬化が進み、血管が狭窄または閉塞して生じます。
高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などが危険因子となり、血流低下や血栓形成によって脳虚血が進行します。
症状は急に現れる場合だけでなく、段階的または進行性に悪化する場合があります。発症時刻だけでなく、麻痺、言語、意識、視野などの変化が拡大していないかを観察します。
心原性脳塞栓症は、心臓でできた血栓が脳血管を閉塞して生じる
心原性脳塞栓症は、心房細動などを背景として心臓内に形成された血栓が脳へ流れ、脳血管を急に閉塞して生じます。
太い脳血管が突然閉塞することがあり、発症時から重い片麻痺、失語症、意識障害などがみられる場合があります。
ただし、病型だけで重症度を決めることはできません。閉塞血管、梗塞範囲、側副血行、再開通の有無などによって症状は異なるため、神経症状の急な変化を捉えることが重要です。
障害部位から考える脳梗塞の観察ポイント
運動機能の障害では、片麻痺と日常生活への影響を確認する
大脳皮質の運動野や内包を通る錐体路が障害されると反対側の上下肢に運動麻痺が生じます。
観察では、上下肢の挙上や保持、握力、左右差、座位保持、立ち上がり、歩行時の安定性を確認します。筋力だけでなく、麻痺側を使えているか、移動時に介助が必要かも把握します。
片麻痺がある場合は、転倒、転落、廃用、関節拘縮、皮膚トラブルのリスクが高まります。ADLのどの場面で困難が生じているかを具体的に捉えます。
感覚機能の障害では、けがや褥瘡に気付きにくい状態かを評価する
感覚野、視床、感覚伝導路などが障害されると反対側のしびれ、触覚低下、痛覚低下、温度覚低下などが生じます。
しびれの部位や程度、触れたことへの反応、温冷刺激への反応、麻痺側の皮膚損傷、圧迫部位の発赤を確認します。
感覚が低下すると熱さ、痛み、圧迫に気付きにくくなります。麻痺による体動制限も重なるため、皮膚状態と体位変換の状況を合わせて評価します。
失語症と構音障害は、同じ「話しにくさ」として扱わない
失語症は、主に優位半球の言語ネットワークが障害され、話す、聞いて理解する、読む、書くなどの言語機能が障害される状態です。
構音障害は、発声や発音に関わる運動機能の障害によって、言葉が不明瞭になる状態です。言語の理解や考えをまとめる力が保たれている場合もあります。
観察では、簡単な指示を理解できるか、呼称ができるか、言葉が出にくいか、ろれつが回るか、筆談や指差しで意思表示できるかを分けて確認します。理解力が低いと決めつけず、患者さんに合う伝達方法を選びます。
嚥下障害では、誤嚥の徴候と呼吸状態を合わせて確認する
大脳の嚥下関連領域、皮質延髄路、脳幹の嚥下中枢や関連する脳神経が障害されると食塊を口から咽頭、食道へ安全に送り込む機能が低下します。
食事中や食後のむせ、咳嗽、湿性嗄声、流涎、食物残留、食事時間の延長、摂取量の低下を確認します。呼吸数、SpO2、痰の増加、肺音、発熱なども誤嚥後の呼吸器症状として合わせて観察します。
嚥下障害が疑われる場合は、自己判断で飲水や食事を勧めず、病棟の手順や指示に沿って対応します。脳卒中急性期では早期の嚥下スクリーニングと専門的評価が肺炎リスクの低下につながるとされています。
視野障害と半側空間無視は、別の症状として観察する
視覚路や後頭葉の障害では、視野の一部が見えにくくなる視野障害が生じることがあります。
頭頂葉を含む注意のネットワークが障害されると視力に大きな問題がなくても、身体や空間の片側に注意を向けにくい半側空間無視が生じることがあります。
食事の片側だけを残す、麻痺側の手を使わない、車椅子や歩行時に片側の物へぶつかる、呼びかけへの反応に左右差があるなどを確認します。移動や整容、排泄などの場面で安全に行動できるかを評価します。
小脳・脳幹の障害では、運動失調と急性増悪徴候を見逃さない
小脳やその連絡路が障害されると筋力が保たれていても動きを協調させにくくなり、ふらつき、測定障害、座位や歩行の不安定さが生じます。
脳幹梗塞では、複視、眼球運動障害、構音障害、嚥下障害、顔面の感覚・運動障害、意識障害、呼吸状態の変化などがみられることがあります。
広範囲の脳梗塞や後頭蓋窩の梗塞では、脳浮腫や頭蓋内圧亢進により意識状態が悪化することがあります。JCSまたはGCS、瞳孔径・対光反射、頭痛、嘔吐、血圧、呼吸パターンの変化を継続して確認し、急な変化は速やかに報告します。
実習で優先して集める情報
・バイタルサイン:血圧、脈拍、呼吸数、SpO2、体温
・意識状態:JCSまたはGCS、会話への反応、見当識
・神経症状:顔面の左右差、上肢・下肢の麻痺、感覚障害、言語、視野、注意機能
・嚥下と呼吸:むせ、湿性嗄声、咳嗽、痰、呼吸音、食事摂取量
・排泄と栄養:排尿・排便状況、水分摂取量、食事形態、体重の変化
・生活機能:寝返り、起き上がり、移乗、歩行、更衣、整容、排泄動作
・治療と再発予防:血圧、血糖、脂質、心房細動の有無、抗血栓薬の内容、服薬継続状況
観察所見を病態生理と結び付けてアセスメントする
脳梗塞のアセスメントでは、症状を並べるだけでなく、障害部位、起こっている生活上の困難、予測される二次的なリスクをつなげて考えます。
たとえば「右中大脳動脈領域の脳梗塞により左上下肢の運動麻痺と構音障害がみられる。左側への注意低下の有無を確認し、移乗や歩行時の転倒・転落リスクを評価する。食事中のむせ、湿性嗄声、呼吸状態を確認し、嚥下障害の有無を評価する」のように記載すると所見と観察の目的が明確になります。
ただし、構音障害があることだけで嚥下障害があるとは判断できません。嚥下機能、呼吸状態、食事中の症状を個別に確認し、患者さんの全体像から判断します。
看護では、安全確保と機能回復を同時に考える
片麻痺、感覚障害、視野障害、半側空間無視がある場合は、ベッド周囲の環境整備、移動方法、ナースコールの位置、介助時の立ち位置を個別に調整します。
嚥下障害がある場合は、姿勢、食事形態、一口量、食事中の覚醒状態、口腔内残留を確認し、誤嚥性肺炎の予防につなげます。
失語症や構音障害がある場合は、短い文でゆっくり伝える、選択肢を示す、文字盤や筆談、ジェスチャーを活用するなど、意思を表出しやすい方法を検討します。
再発予防では、血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動などの危険因子と治療内容を理解し、退院後も継続できる服薬・生活管理につなげます。
まとめ
脳梗塞では、脳血流低下による障害部位に応じて、運動、感覚、言語、嚥下、視覚、注意、意識などの症状が現れます。
観察では、症状の有無だけでなく、急な悪化がないか、ADLにどのような影響があるか、転倒や誤嚥などの二次的なリスクがないかを確認します。
病態生理から症状、観察、看護につなげて考えることで、実習記録に根拠を持たせやすくなります。
参考サイト
脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕 日本脳卒中学会
脳卒中の治療と仕事の両立 お役立ちノート 厚生労働省・産業医科大学医学部リハビリテーション医学講座 佐伯覚
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